[はじめに]
    かつて、郷土史料室が主催した写真展において、「  福島にこんな土人形あったなんて、知らなかった!」と会場にお越しになった多くの方々からお話をいただきました。
   この根子町人形は、江戸時代に奥州街道(明治6年(1873年)、陸羽街道へ改称)の宿場町であった清水宿の土産物として作られた土人形です。
   根子町人形は、江戸時代から大正時代初期頃までおおよそ120年間造り続けられましたが、鉄道の開通とともに、宿場機能が失われ、土産物として売られた根子町人形は廃絶し、「  幻の土人形」となってしまいました。
   しかし、近年、福島県でも江戸期に土人形が作られていたことを伝えたく、根子町人形の再現製作を始めた方がいらっしゃいます。幸田冬子さんです。
   今後、この人形が「幻の土人形」から「蘇る土人形」になることを願ってやみません。
   今回は、郷土史料室で所蔵している根子町人形の一部と幸田さんの再現作品を紹介します。

〇「根子町」とは?
   松が多い山林を切り開いて造った奥州街道の道筋は、松の根が多く歩くのが大変だったので、伊達政宗が「根子町」と名付けたと伝えられています。比較的早い時期に清水町村と改称されたにもかかわらず、「根子町」の愛称は絶えませんでした。

 

          

                                                 現在の清水町(令和8年10月撮影)

<資料一覧>

No.

資料名

No. 資料名
1 官女の舞
時代不明 仙台屋作
 
11 太鼓打童子
江戸時代末期~明治時代 仙台屋作
 
2 鯛乗り恵比須
江戸時代後期 仙台屋作
 
12 熊抱き金時
江戸時代末期~明治時代 仙台屋作
 
3 鯛かつぎ童子
江戸時代後期 仙台屋作
 
13 亀乗り鯛かつぎ大黒
江戸時代末期~明治時代 仙台屋作
 
4 二福神川渡り
江戸時代後期 仙台屋作
 
14 俵乗り大黒
江戸時代末期~明治時代 仙台屋作
 
5 二福神鯛かつぎ
江戸時代後期 仙台屋作
 
15 熊谷直実(くまがいなおざね)
江戸時代末期~明治時代 仙台屋作
 
6 小鼓
江戸時代後期 仙台屋作
 
16 福助(ふくすけ)
明治時代 吉野屋作
 
7 ひょうたん乗り童子
江戸時代後期 仙台屋作
 
17 蚕神(かいこがみ)
明治時代末期~大正時代 仙台屋作
 
8 重ね餅
江戸時代後期 仙台屋作
 
18 蚕神群像(かいこがみぐんぞう)
明治時代末期~大正時代 吉野屋作
 
9 坐り裃
江戸時代末期~明治時代 仙台屋作
 
19 静御前(しずかごぜん)
令和5年(2023年) 幸田冬子作
 
10 犬乗り童子
江戸時代末期~明治時代 仙台屋作
 
20 鯛乗り恵比須
令和5年(2023年) 幸田冬子作
 

 

1 官女の舞
時代不明 仙台屋作
[高さ155ミリメートル 幅110ミリメートル 奥行60mm]
官女とは、宮中に仕える女性のことです。左手に扇を持ち、右手を頭の後ろに添えたポーズは、優美で華やかです。

2 鯛乗り恵比須
江戸時代後期 仙台屋作
[高さ110ミリメートル 幅150ミリメートル 奥行55ミリメートル]
袖をまくりあげて大鯛の背に乗った恵比寿を表現しています。彫りの深い型で、胡粉(ごふん)も良質です。筆で太く描いた目の表情、緋色や波の色彩も良い作品です。
 
3 鯛かつぎ童子
江戸時代後期 仙台屋作
[高さ120ミリメートル 幅150ミリメートル 奥行60ミリメートル]
鯛の剥落がやや目立ちますが、太筆で描いた童子の表情が良い作品です。
 
4 二福神川渡り
江戸時代後期 仙台屋作
[高さ143ミリメートル 幅90ミリメートル 奥行58ミリメートル]
恵比須が福禄寿を背負って川を渡る場面を表現しています。堤人形の同種作品よりも優れた型で、彩色・面相も良い作品です。
 
5 二福神鯛かつぎ
江戸時代後期 仙台屋作
[高さ105ミリメートル 幅150ミリメートル 奥行50ミリメートル]
大きな獲物に喜ぶニ福神の表情が良い作品です。頭巾を被っているのが大黒天、風折烏帽子(かざおりえぼし)を被っているのが恵比須です。
 
6 小鼓
江戸時代後期 仙台屋作
[高さ113ミリメートル 幅150ミリメートル 奥行60ミリメートル]
五人囃子の小鼓です。軽妙な表情が良い作品です。小袖に根子町人形独特の蕨手(わらびて)文様が描かれています。
 
7 ひょうたん乗り童子
江戸時代後期 仙台屋作
[高さ100ミリメートル 幅80ミリメートル 奥行50ミリメートル]
形態、彩色が良く、童子のすまし顔が面白い作品です。堤人形に似た作品があります。
 
8 重ね餅
江戸時代後期 仙台屋作
[高さ168ミリメートル 幅90ミリメートル 奥行55ミリメートル]
重ねた丸餅を乗せた三宝(さんぽう)を持つ女性は、浮世絵から抜け出したようです。極度の細書きの面相、梅と松葉くずしの文様、ともに達者な筆使いです。平面的、絵画的表現で、同種の堤人形とは全く異なります。
 
9 坐り裃
江戸時代末期~明治時代 仙台屋作
[高さ120ミリメートル 幅160ミリメートル 奥行70ミリメートル]
古型を用いており、襟元、袴の襞(ひだ)まで立体的に表現されています。右手に扇は持っていませんが、五人囃子の謡(うたい)かもしれません。
 
10 犬乗り童子
江戸時代末期~明治時代 仙台屋作
[高さ83ミリメートル 幅80ミリメートル 奥行30ミリメートル]
童子が乗っている犬は、日本原産の小型犬である狆(ちん)です。黒く垂れた耳や穏和な顔つきがよく表現されています。
 
11 太鼓打童子
江戸時代末期~明治時代 仙台屋作
[高さ90ミリメートル 幅85ミリメートル 奥行40ミリメートル]
三つ巴の太鼓を叩く童子を主題とした作品は、他の産地でもよく見られます。服装の雰囲気から、唐子(からこ)かもしれません。
 
12 熊抱き金時
江戸時代末期~明治時代 仙台屋作
[高さ100ミリメートル 幅100ミリメートル 奥行50ミリメートル]
端午の節句に贈られることが多かった金太郎の人形は、全身が赤く塗られていることが多いです。これは、血色の良い元気な子どもを表しているだけでなく、痘瘡(とうそう)よけのまじないの意味もあります。
 
13 亀乗り鯛かつぎ大黒
江戸時代末期~明治時代 仙台屋作
[高さ168ミリメートル 幅105ミリメートル 奥行50ミリメートル]
亀の背に乗った大黒が、高々と大鯛を担ぎあげている様子を表現しています。面相は軽妙に描かれています。
 
14 俵乗り大黒
江戸時代末期~明治時代 仙台屋作
[高さ110ミリメートル 幅90ミリメートル 奥行58ミリメートル]
頭巾を被り、右手に小槌、左手に袋を持ち、米俵に乗った大黒天を表現しています。やや太目の筆使いで軽妙に描かれています。
 
15 熊谷直実(くまがいなおざね)
江戸時代末期~明治時代 仙台屋作
[高さ175ミリメートル 幅145ミリメートル 奥行60mm]
熊谷直実は、一ノ谷の戦いで平敦盛を討ち取った源氏方の武将です。退却しようとしていた敦盛を日の丸の扇で呼び戻す場面を描いています。黒い馬に乗り、ひげを生やし、縁取りのはっきりした目とへの字口で、勇ましい姿を良く表現しています。
 
16 福助(ふくすけ)
明治時代 吉野屋作
[高さ180ミリメートル 幅160ミリメートル 奥行95mm]
福助は、大きな頭の正座をした男性をかたどった幸福を招く縁起人形です。肉厚なので、タネ(原型)に彩色した見本かもしれません。どっしりした見事な作品です。
 
17 蚕神(かいこがみ)
明治時代末期~大正時代 仙台屋作
[高さ170ミリメートル 幅100ミリメートル 奥行50mm]
蚕神は、明治30年代の養蚕業の最盛期に量産されました。仙台屋の蚕神は、金色の冠(かんむり)をかぶり、桑の枝を持っています。
 
18 蚕神群像(かいこがみぐんぞう)
明治時代末期~大正時代 吉野屋作
仙台屋とは異なる蚕神が数点残されています。中央の金色の人形は、「金色姫(こんじきひめ)」です。蚕神の製作を最後に、根子町人形は衰退していきました。
 
19 静御前(しずかごぜん)
根子町人形再現作品
令和5年(2023年) 幸田冬子(こうだふゆこ)作
[高さ125ミリメートル 幅90ミリメートル 奥行42ミリメートル]
福島県立博物館所蔵(梅宮茂旧蔵)の静御前を参考に再現した作品です。原資料は右足を踏み出した瞬間の構図をとらえた見事な作品ですが、剝落が目立ちます。
20 鯛乗り恵比須                                    根子町人形再現作品
令和5年(2023年) 幸田冬子(こうだふゆこ)作
[高さ98ミリメートル 幅143ミリメートル 奥行38ミリメートル]
福島県立博物館所蔵(梅宮茂旧蔵)と福島市郷土史料室蔵(大村三良旧蔵)の鯛乗り恵比須を参考に再現した作品です。原資料は、袖をまくりあげて大鯛の背に乗った恵比須で、比較的剝落が目立ちません。再現作品は、墨の黒がきいていて、表情も良いです。
 

 

〇幸田冬子さんのプロフィール
福島県いわき市生まれ。10年ほど前からオリジナルの土人形を製作販売。福島県でも江戸期に土人形が作られていたことを伝えたく根子町人形の再現製作及び調査活動を始める。現在東京在住。